連載コラム:動物愛護の現状


第1回『三重県無形民俗文化財「上げ馬神事」今昔』

文責 青木貢一

 

 平成30年5月4日、多度駅にTTP(つづけよう、たどまつり、プロジェクト)創刊号が置かれ、表紙に多度祭りのMIKATA、未来永劫続く祭りのあり方を探求し、共感できる環境、仲間を増やし、歴史ある多度祭りを正しく伝承します。さらに、①安心で安全な取組み、②継承者育成への取組、③積極的な祭事歴史解釈への取組み、④祭りファンを増やす取組みが書かれていた。このことは、騎手を含む祭り関係者、観衆のみならず、神事に使われる馬たちの安心、安全を願う者としては喜ばしいものである。

 

 私がこの上げ馬神事を初めて見たのは、2002(H14)年で、馬に対する取扱いは、衆人監視の基でもお構いなしで暴力の限りを尽くし、それはそれはひどいものだった。猪名部神社、多度大社のどちらもドーピングも行っており、馬虐待の認識は全く欠如しており、三重県の無形民俗文化財の伝統行事として疑念を抱かざるをえなかった。

 当時の具体的な直接的虐待行為は、

  • ドーピング
  • 棒や竹竿で腹、下腹部、尻を連続して殴打(ミミズ腫れができる)する
  • ロープを振り回して腹や尻を叩く
  • 腹や下腹部を蹴り上げる
  • 急所である睾丸を竹で叩く
  • 馬の口のハミを過剰にシャクって興奮させる
  • 法被を振り回して脅す
  • 大声で怒鳴り威嚇して興奮させる
  • 長鞭や竹を使って追いまわす、いきなり水をぶっかけるなどして興奮させる

 というものであった。が、最も危険で問題なのは、坂上の高すぎる垂直壁(2m)であり、狂奔突進させなければならないと関係者一同が思い込んでいた。当時の多度大社の宮司さんは、特に楠回しの行事での事故の多発に対して、対応できないことに悩んでいた。

 

 そのため、2003(H15)年に連絡会は「上げ馬神事から虐待を無くすキャンペーン」の開始とシンポジウム「馬と文化を考えよう~人と動物の共生を目指して~」を開催した。その後、改善への約束がなされたので、キャンペーンを終了した。しかしながら、馬への虐待が無くならず虐待行為がエスカレートする中、2008(H20)年、多度大社で観光客を巻き込み5名が重軽傷を負う事故が発生した。

 

 2009(H21)年、連絡会は多度大社の上げ馬神事実行行為者を馬の虐待で桑名署に告発(動画あり)し、再び「虐待のない上げ馬神事へ」キャンペーンを開始した。告発状は受理され桑名署の捜査が開始されたが、翌年、嫌疑不十分で不起訴となった。その後、2011(H23)年に三重県文化財保護審議会が開催され議論されたので、明らかに直接的虐待行為が減った。しかしながら、問題の坂上の垂直壁については議論されず、そのままの構造が残ってしまい危惧された。そのため、上げ馬神事で使われる馬の中には、即死したもの、肩甲骨、大腿骨、前・後肢などの骨折、多量鼻腔内出血、起立困難などで薬殺処分されたなど事故馬が続出していたが、審議会は全く問題視せず、両神社も関係機関も調査していないために薬殺処分された馬の実数は、全く不明のままである。

 

 2013(H25)年、猪名部神社は、坂上の垂直壁を約20°程度傾斜させた。それ故、仰向け気味に転倒するなどの危険な状況が減り、安全配慮に向けて関係者一同が一歩踏み出してくれたことを、嬉しく思い大いに評価した。一方の多度大社では、あろうことか壁をさらに高くし、人馬ともに危険性が増し、実際に故障馬が続出した。馬の能力のあるなしにかかわらず、この壁の飛越に挑ませること自体が、過度な酷使に当たるので馬への虐待となることを指摘してきた。多度大社は、改善する意思が認められないので、2016(H28)年11月に連絡会は多度大社と上げ馬神事実行主催者を桑名署に告発(動画なし)したが、2017(H29)年4月不受理となり告発状は返却された。

 

 桑名署の不受理の見解は、①刑事事件となるので、組織、団体を対象にできない。②上げ馬神事が、馬の虐待に当たるか否を国及び三重県に尋ねたが、判断できないとの回答であった。③虐待した個人とその行為の指定が必要である。④証拠写真や動画で個人が指定された場合、少年騎手も対象になる可能性がある、とのことであった。この他に、裁判所に執行停止の仮処分を求めること、あるいは改善命令を求めることを提案された。

 

 当面、要望書送付や桑名署への告発、裁判所への申請などは行わず、多度大社で記録された動画を、連絡会のホームページに掲載し、閲覧者の判断に任せることとした。

 

 歴史あるこの祭りが、時代の変化に伴って改善し、スポーツとしての和式馬術の発展、青少年の健全育成などを含め地域の素晴らしいコミニティツールとして継続的に開催され、三重県の無形民俗文化財として、世間を魅了する素晴らしい「上げ馬神事」になることを願うものである。



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