連載コラム:動物愛護の現状


第4回『実験動物について考える』

文責 ヒューメイン・ソサイエティー・インターナショナル研究毒性学部門

日本コミュニケーション・コンサルタント

山﨑佐季子

 私たちの生活に密接に関係している動物の一である、実験動物の存在をご存知ですか。実験動物は、医学などの分野における基礎研究や獣医学の教育はもちろん、化粧品、医薬品やその他化学物質など、私たちが日常的に使う様々な製品の安全性を評価するための試験に使われています。うさぎ、モルモット、ラットや時には犬など、私たちにとって、とても身近な種類の動物たちがたくさん使われているのです。ひょっとしたら、みなさんが使っている薬や化粧品は、実験動物たちのおかげで作られているものかもしれません。

 

 近年、世界各国で、動物実験から動物を用いない代替法に移行しようという動きが広がっています。毎年世界中で何千万匹もの実験動物が犠牲になっていると言われている中、このような動きの背景には、もちろん動物に対する配慮という観点もあります。しかし、それ以上に、動物実験では種差により必ずしもヒトに即した結果を得られないということもあります。例えば、人間に対する安全性を評価するための安全性試験や、人間のための医薬品や治療方法を開発する研究などの場合、動物実験からヒト生物学を基盤とした最新の科学技術に移行したほうが、ヒトに即した結果を得られるため、消費者の安全性の向上や開発の効率化につながるというメリットもあります。また、代替法は開発に長い時間と多額の資金がかかりますが、一度開発してしまえば、動物実験よりもはるかに安価で迅速な実験・試験方法です(動物実験と動物を用いない代替法のコストなどの比較については、ぜひこちらよりアンドリュー・ローワン博士講演会の資料5ページ目をご覧ください)。

 

 このような背景があり、世界各国では、動物実験を廃止・削減する規制改正が着実に進んでいます。例えば、化粧品の動物実験は、現在世界の37の国と地域で禁止されています。また、保健医療などの基礎研究でも、動物を使った研究から、よりヒトに即した結果を得られる最新の動物を用いない研究方法への移行がはじまっています。日本では、残念ながら、化粧品の動物実験は禁止されていませんが、最近の日本の実験動物関連の進歩として、農薬を登録するための要件の一つであったイヌを用いた1年間の試験が廃止されました。食品安全委員会が委託した科学的な研究により、イヌを用いた1年間の試験が、人間における安全性を評価するのに役立つ情報をほぼ貢献しておらず、したがってほとんどのケースにおいて試験を実施する必要がないことが示されたためです。

 

 日本の動物の愛護及び管理に関する法律においては、できる限り代替法を使うことや、使われる実験動物を可能な限り削減することなど、実験動物への配慮事項が努力義務として盛り込まれています。しかし、他国の規制よりも脆弱で、決して国際基準と足並みがそろっているとは言えません。日本において、実験動物がどのくらい使われているのかということに関するデータは公表されていませんが、公益社団法人日本実験動物協会が公表した2016年4月から2017年3月の集計1)によると、約425万匹の実験動物がこの期間において販売されています(実験施設で繁殖しているなどの実験動物の頭数は反映されておらず、動物実験または実験動物の繁殖を実施しているすべての施設を網羅しているとは限らない数値です)。実験動物に関する規制が不十分なために、これだけの動物に配慮が行き届いていないということになります。私たちが日常生活で何気なく使っているあらゆる製品や化学物質の安全性を評価するためにお世話になっている実験動物について、一度考えてみませんか。

 

 ヒューメイン・ソサイエティー・インターナショナルは、動物愛護管理法の改正における動物実験にかかわる部分において動物との共生を考える連絡会と共同提案を出させていただいています。

 

注釈: 1) http://www.nichidokyo.or.jp/pdf/production/h28-souhanbaisu.pdf


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